輪行していると……
駅で自転車をパックしたり、あるいは袋から出して組み立てたりしているときに話しかけられることがある。
こんなふうに入ってるんだ、とか、あとは車輪をつけたときにおっ!とかね。こんなに簡単につくんだねって。
むかし乗ってたんだよ、っていう人もなかにはいるし、こういうのに乗ってみたいって思うんだよねっていう人もいる。後者はたいてい、こういうのって高いんでしょう? から始まって、いくらくらいするの、とか、この自転車はいくらなの? とか聞かれる。値段を言うと(10万円くらいからですよね、とか、これはと聞かれれば20万円くらいでした、とか)、それはそれはびっくりされて、やっぱり高いもんだねえとなって話はたいてい終わる。値段を出したことを少しだけ後悔する。こういう羊の角みたいなハンドルじゃなく、まっすぐなハンドルのであれば5万円くらいからあるんじゃないでしょうか、とフォローするようにあわてて追っかけ言うが、まず役には立たない。
輪行中の車内で声をかけられることもある。「自転車だね、どこを走るの?」って聞かれることが多い。どこどこの駅で降りてそこからあっち方面に向かって……などと言う。地元で土地勘のある人だったりすると、あそこに寄るといいとか、どこどこは見どころだよとか、面白そうな話題も出てくる。でも関心のない場所もあったりもして、あぁ知ってるけどそこは行かないなあ興味ないなあと内心思いつつ、いいですよね行ってみようと思うんです、あるいは、そんなところがあるんですか? どこから行くんですか? と話を合わせて盛り上げたりしてる。
で、今日はどこまで行くの、と聞かれると、一日のだいたいの距離から、短ければそのまま話すし、長ければ濁す。どこどこ方面ですねえなどといいながら。長めの距離をそのまま言うと、そこで間違いなく変人扱いされてしまうから。目安、せいぜい4、50キロの場所にしておく。
◆
「こころ旅、ですね」
と話しかけられたことがあった。
それは他ならない、NHK火野正平氏の毎日やっている番組である。
視聴者に、自転車に乗らない、あるいは興味のないって人も多いと聞く。自転車全面押しの構成じゃないからね。あとBSで朝の連ドラを見ている人は、つけっぱなしにしておくとこころ旅が始まるんだってね。
しかしよく知られているし、見られているんだなあって思った。輪行って言葉は知らなくても(自転車趣味じゃなければ無縁の言葉だから)、こころ旅って言って伝えてくれるのはなんだかうれしかった。
「はい、こころ旅です」
僕はそう答えた。
それからその人が降りるまでの3、4駅、自転車の話をしたりこの土地の話をしたり──。
最近はすっかり揺れなくなってしまった、気動車のなかでの話。
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